正倉院本王勃詩序訳注

長田夏樹/蔵中進/原田松三郎/髙橋庸一郞/
佐藤晴彦/山川英彦/辻憲男/神野富一

 

正倉院に伝存する『王勃詩序』一巻は、文学書としても宝物としてもまことに貴重である。若くして文名をうたわれた夭折の詩人王勃の作品は、没後ほどなく『王勃集』にまとめられ、それはわが国にも遣唐使たちによって早くも奈良朝前にもたらされた。その『王勃集』の中に詩序のみを集めた巻があった。正倉院本『王勃詩序』はそれであり、しかもこれは巻末の余白に「慶雲四年(七○七)七月廿六日」と墨書されて古い書写の時が判明する。
この本は若き王勃が都や地方の宴席などの場で折々に成した詩序、計四十一篇を内容とする。その文章は、対句・故事を頻用し、駢文体を用い、華麗で典雅な用語を駆使し、独自の詩的世界を展開している。しかも全篇のうち、約半数(二十一篇)は現行の『王子安集』には見えないもので、この正倉院本のみに伝わる。もってこの本は、王勃や初唐詩史の研究上、極めて高い価値を有するというべきであろう。時代を映して多くの則天文字を含んでいる点も一特色をなす。
また、古くわが国に伝わった『王勃集』は早速当時の文人たちに学ばれ、『懐風藻』の詩文や『万葉集』中の歌文にも少なからぬ影響を与えたことが知られている。現存するこの『王勃詩序』が、日中比較文学研究のためにも重要な文献であること、言を俟たない。
本書は、神戸市外国語大学を拠点とする当研究会が長年取り組んできた、この正倉院本『王勃詩序』の基礎的研究の成果を公刊するものである。各詩序ごとに本文を校訂し、訓読・通釈・語釈をほどこして丁寧な読解を試みた。全篇にわたる訳注は初めてのことである。また、句単位の一字索引を付し、研究の便宜に供した。


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