中島敦と〈南洋〉
戦時下、〈日本〉の委任統治領であった〈南洋〉に訪れた作家、中島敦。
ゴーギャンに倣い〈未開〉への憧憬を持った彼が〈南洋〉で得たのは何か。
中島敦の軌跡を辿る
実際は、何時何処にゐたつてお前はお前なのだ。銀杏の葉の散る神宮外苑をうそ寒く歩いていた時も、島民どもと石焼のパンの実にむしやぶりついてゐる時も、お前はいつもお前だ。少 しも変りはせぬ。ただ、陽光と熱風とが一時的な厚い面被を一寸お前の意識の上にかぶせてゐるだけだ。──────────(「真昼」)