文学は権力と主体の関係(主体化=権力化)をどのように描いてきたのか。
夏目漱石、森鷗外、伊藤左千夫、横光利一、坂口安吾、中野重治、遠藤周作らの文学を縦横に論じて、文学と権力の本質に迫る。
「中本たか子小伝」を付す。
はじめに─芥川龍之介「鼻」に触れつつ
Ⅰ────漱石文学の応答責任
転移する「こころ」
手記の宛先
「坊つちやん」の応答責任
漱石文学の謎 1「こころ」のハムレット/2先生の最期/3「蛇」のサブリミナル
Ⅱ────文学と権力
「高瀬舟」の〈他者〉
「野菊の墓」の寓意
「マルクスの審判」の正義
権力の表現 1「入れ札」の天皇/2「恋するザムザ」の欲望
Ⅲ────戦後の風景
「萩のもんかきや」私注
「海と毒薬」と同時代
「桜の森の満開の下」の主体─「羅生門」を合わせ鏡として
Ⅳ────表現の横断
表現の自由をめぐって
年上の女が先に死ぬ物語
近代の恐怖表象
Ⅴ────中本たか子の時代
生い立ちと上京 中本たか子小伝(一)
活躍と左傾 中本たか子小伝(二)
拷問と入院 中本たか子小伝(三)
服役と再出発 中本たか子小伝(四)
戦中と終戦 中本たか子小伝(五)
資料紹介 中本たか子の書簡
泉鏡花、宮澤賢治、坂口安吾、太宰治などの作品をそれぞれ夢、香り、異界、はなしといったキイワードから読み、後半では新劇の展開を、岸田國士、田中千禾夫、矢代静一、井上ひさしなどの戯曲や岡本かの子の小説などから辿ってみる。
Ⅰ─フィクションの生まれるところ
第一章 開かれた夢の力─泉鏡花「春昼」「註文帳」など
第二章 植物性の恋物語─宮澤賢治「ローマンス」をめぐって
第三章 モダニストの一軌跡─富ノ澤麟太郎とその周辺
第四章 一九三〇年代・パリの日本語─横光利一・林芙美子・森三千代の場合
第五章 フィクションとしての異界─桜の森と夜長の里
第六章 「はなし」を受け継ぐ─太宰治「破産」
Ⅱ─劇の生まれるところ
第七章 「タンタジールの死」の上演をめぐって─自由劇場・友達会の取り組み
第八章 田漢の見た日本の新劇とその影響
第九章 戯曲のことばと劇場空間─岸田國士「ママ先生とその夫」「犬は鎖に繋ぐべからず」
第一〇章 ダンスへの目覚め─岡本かの子「やがて五月に」から
第一一章 神に問うことば─田中千禾夫と矢代静一
第一二章 音楽劇における歌のはたらき─井上ひさし「太鼓たたいて笛ふいて」
女性たちは何を書いてきたのか
階級、ジェンダー、セクシュアリティなどの視座から、女性文学の多様な側面に切り込む。宮本百合子を中心に、大塚楠緒子、野上彌生子、平塚らいてう、岡本かの子、林芙美子、石牟礼道子、向田邦子、角田光代らの作品を幅広く取り上げ、一世紀にわたる女性文学の内実を解き明かす、フェミニズム批評の実践。
Ⅰ
一 フェミニズム批評
第1章 女と言説
第2章 フェミニズム批評の有効性
第3章 フェミニズム批評・ジェンダー批評・ケアの倫理
第4章 女性文学史の新たな構築をめざして—『【新編】日本女性文学全集』全一二巻完結
Ⅱ
二 宮本百合子とセクシュアリティ
第5章 百合子とセクシュアリティ—レズビアン表象の揺らぎ
第6章 『伸子』の素子—レズビアニズムの〈変態〉カテゴリー化に抗して
第7章 『乳房』—ジェンダー・セクシュアリティの表象
第8章 鼎談 愛と生存のかたち—湯浅芳子と百合子の場合(黒澤亜里子・沢部ひとみ・岩淵宏子)
三 宮本百合子と反戦・平和
第9章 『杉垣』にみる反戦表現—国策にあらがう〈居据り組〉夫婦
第10章 『築地河岸』『二人いるとき』—既婚女性と反戦
第11章 『鏡の中の月』『雪の後』『播州平野』をめぐって—戦争ファシズムと女性
第12章 占領下の百合子—民主化・女性の独立・反戦平和をめざして
四 宮本百合子の世界と表現方法
第13章 百合子と日本女子大学校
第14章 『伸子』—研究の変遷と今日的争点
第15章 『伸子』にみるスペイン風邪と恋—パンデミックと文学
第16章 『未開な風景』—テーマ・創作方法をめぐって
第17章 宮本百合子と佐多稲子—表現方法の差異と多様性
Ⅲ
五 女性表象の変容
第18章 女性による樋口一葉論—三宅花圃・田辺夏子・与謝野晶子・平塚らいてう・田村俊子・長谷川時雨
第19章 大塚楠緒子『空薫』『そら炷 続編』—反家庭小説の試み
第20章 野上彌生子『噂』—揺れる家庭
第21章 求愛の表現—樋口一葉・田村俊子・宮本百合子・山田詠美
第22章 戦時下の「母性」幻想—総力戦体制の要
第23章 角田光代『八日目の蟬』にみる母と娘—母性幻想の終焉
六 フェミニズムとセクシュアリティ
第24章 『青鞜』におけるセクシュアリティの政治学への挑戦—貞操・堕胎・廃娼論争
第25章 平塚らいてうと成瀬仁蔵—『青鞜』と日本女子大学校
第26章 平塚らいてう—出発とその軌跡
第27章 田村俊子宛鈴木悦書簡をめぐって
第28章 林芙美子『ボルネオ ダイヤ』『牛肉』『骨』—売春婦たちの〈掟〉
第29章 林芙美子『晩菊』—〈老い〉とセクシュアリティ
七 社会とジェンダー
第30章 岡本かの子『生々流轉』—乞食の意味
第31章 石牟礼道子の世界—表象としての〈水俣病〉
第32章 三浦綾子『細川ガラシャ夫人』—宗教的女性像
第33章 向田邦子のまなざし—『お辞儀』『スグミル種』『はめ殺し窓』を読む
大洗と水戸とを結ぶ電車に水浜電車というのがあった。水戸の高校に通うことになってはじめて乗った乗り物で、人によって水浜線とか、水浜鉄道などと呼ばれもするが、一両だけのいわゆるチンチン電車である。所要時間は、片道およそ四〇分程度だが、その乗客になってわたしは、教科書以外の文庫本や雑誌を読む自分を見出すことになった。
───────── Ⅰ ─────────
伊藤整に会わざるの記
青春ひとり芝居
「花の女子大生」という記号
小笠原克
山田昭夫
藤の七年
人の住む場所
初めての中国
滞英雑感
気まぐれ街角紀行
夕陽と歓談─花田俊典追懐
荷風・アメリカ・魯文
───────── Ⅱ ─────────
『雪明りの叢書』のこと
新しい文学世代の肖像─長田弘と清水昶
早稲田文学通史[第三次]
伊藤整
深沢七郎『甲州子守唄』
状況へ架橋する女性作家
中野美代子の現在
文芸映画鑑賞五篇
井上ひさしの戯曲「日本人のへそ」
村上春樹『羊をめぐる冒険』の「耳の女」
「伽倻子」のために
歌人大熊信行のことなど
───────── Ⅲ ─────────
筒井康隆と現代
「青春小説」の流行
現代史と文学
小檜山博『出刃』その他
遠藤周作『海と毒薬』鑑賞のてびき
松本清張『無宿人別帳』
批評理論の転回・知のプロジェクト
菊池寛
『座談の愉しみ「図書」座談集』
織田作之助
重ね書きされる戦争
安部公房『城塞』
───────── Ⅳ ─────────
文学全集「月報」八篇
文芸文庫・作家案内五篇
───────── Ⅴ ─────────
ほろ酔い詩歌紀行
文学史を再構築する試み
古事記 日本書紀 万葉集 懐風藻 風土記…
15日で学ぶ 新たな上代文学の世界
第一日 上代文学とは──概説
第二日 『古事記』──神話の世界観
第三日 『古事記』──伝承の世界
第四日 『日本書紀』──編年体で語る歴史
第五日 『万葉集』──伝承歌の位置づけ
第六日 『万葉集』──初期万葉の世界
第七日 『万葉集』──持統朝の宮廷歌
第八日 『万葉集』──聖武朝の宮廷歌
第九日 『万葉集』──文人たちの交友
第十日 『懐風藻』──東アジアの共通言語
第十一日 『万葉集』──若き文人たちの雅
第十二日 『万葉集』──渡来系の人々
第十三日 『万葉集』──天平の雅と東アジア
第十四日 『出雲国風土記』──神によって創られた国
第十五日 『日本霊異記』──神の時代から仏の時代へ
明治三十年代における戦争、戦争と密接に関わるところの〈国民〉の想像を
革新的な問題として取り組んだ漱石・露伴の仕事の意味を中心に考える
Ⅰ───明治三十年代の文学状況
1 樗牛登場
2 樗牛のホイットマン論(明31)─漱石のホイットマン論(明25)を傍らに置いて
3 啄木における〈安楽〉
〈コラム〉一等国
4 漱石の日露戦争─「琴のそら音」(明38)と「趣味の遺伝」(明39)
5 〈国民〉の想像─漱石『夢十夜』(明41)
6 〈国民〉の文章─露伴「土偶木偶」(明38)と「普通文章論」(明41)
7 露伴の元曲研究
Ⅱ───その他
8 露伴学人
9 露伴と仏教(一)─『大詩人』復元
10 露伴と仏教(二)─説話文学としての仏典
11 露伴と仏教(三)─婦人雑誌と露伴〈華厳経三部作〉
12 露伴の『論語』注釈
〈教材研究1〉 魯迅「故郷」─「紺碧の空に金色の丸い月」
〈教材研究2〉 漱石『夢十夜』より─「第一夜」と「第六夜」の学習
〈教材研究3〉 幸田文『あとみよそわか(抄)』─〈学び〉の体験
13 小川洋子「原稿零枚日記」ノート
今時、これほどに格調高く高雅な文体を書かれる方がどれほどおられるだろうか。私のような凡俗にはこの原稿を評するなど畏れ多く、ただ恐縮するばかりだ。襟を正したくなるほど美しい、得難い文章である。漱石好きには必読の書であろう。まことに有難い。
夏目房之介
Ⅰ
杜甫の愚直 漱石の拙
『彼岸過迄』の「雨の降る日」に─西田幾多郎と漱石
浄林の釜─子規・愚庵・漱石
『虞美人草』の頃─西園寺首相をソデにした漱石
色ということ、空ということ
ロンドンの漱石本
片付かない京都
「明暗」のお延と清子
悪妻あっぱれ─夏目鏡子と新島八重
谷崎潤一郎の漱石批判
厠の陰翳と羊羹の色
輝ける若葉 一条美子の君
Ⅱ
夏目漱石「京に着ける夕」論
─寄席・落語に始まった子規との交友
Ⅲ
「心」によせる茶会
茶道が結ぶ日本とハワイの絆
二つのメモリアル
普請の思い出
ドラという名の日本猫
落ち椿
私の京都新聞評
漱石句碑の縁
「空」を重んじる思想
養壽庵の軸を床に掛ける