重ね書きする/される彼ら
本書収録の論考は、さまざまな資料や発表媒体との遭遇によってそのつど誕生したゆえに、語り口や表記の仕方に相違はあるが、統一せずにそのままにしたところがある。ただし、そのいずれの機会に於いても、本書が資料を生かす論述に意を注いでいることはいうまでもない。それとともに、大正文学の担い手たちの、いわば個体発生のしくみが、それ以上にいかに同時代テクストとの重ね書きのうえに成立しているかが浮かび上がってくるように心がけたつもりである。いまは、そうして重ね書きする/される彼らの現場をたどることで、文学が担う場所の豊かさが読者に伝わることを願うばかりである。──────「まえがき」より
第一章 重ね書きする/される彼ら
重ね書きする/される有島武郎
構成される〈社会〉
表象としての“光”
越境する表象
評伝劇の遠近法
第二章 通俗小説の修辞学
久米正雄『蛍草』精読
大正期「挿絵入り小説」の問題
「ユーディット」の誘惑
通俗小説の政治学
第三章 交錯する座標
浮上する身体
附─徳田秋声『四十女』の遠近法
記憶の地誌/想起の空間
大正十一年(一九二二)の文学
〈関東大震災〉の記号学
書簡のドラマ/ドラマとしての書簡
第四章 アヴァンギャルドの方へ
アヴァンギャルドの文脈
堀辰雄とアヴァンギャルド
言語の網状組織へ
横光利一・川端康成
「アメリカニズム」についてのノート
第五章 彼らのChushingura/忠臣蔵
「近代忠臣蔵」というステージ
彼らのChushingura/忠臣蔵
大坂の陣と近代文学